月光にぬれる五重塔
1959年、平山郁夫画伯が29歳のときに描いた「仏教伝来」が好評を博し、以後画伯は仏教伝来の道をたどり、シルクロードへとのめり込んで行った。玄奘三蔵の足跡を追って、山を越え、砂漠を渡り、いくつもの仏教遺跡を訪れた。乾き切った熱風と、肌を刺す寒風を五感で体感し、仏教伝来の壮大な空間と時間を身をもって体験した上で描いたのが、日本の古寺シリーズである。
1970年代後半から80年代に奈良を歩き、五重塔を中心に多くの作品を遺した。薬師寺、 興福寺、法起寺など塔のある寺の魅力を余すところなく描いている。中でも法隆寺の五重塔は、日本最古の五重塔として風格もあり、その重厚感は他を圧している。画伯もその雄姿に強く惹かれていたようだ。
1300年余、揺るぎない威容を誇る法隆寺五重塔を、平山画伯は季節を変え、時間を変えて、千変万化の美しさを飽くことなく追求している。この月の光に浮かび上がる「月光の塔 法隆寺」(1988年作)は、その中でも傑作の一つだと私は考えている。松の幹の間から見える塔は、満月の光を浴びて、夜空に高くそびえ、崇高である。聖徳太子の寺・法隆寺に寄せる画伯の尊崇の念がひたひたと伝わってくる。(付属解説書より抜粋)
監 修 平山 美知子氏(公益財団法人 平山郁夫シルクロード美術館名誉館長)
解 説 谷岡 清(美術評論家/NPO法人美術教育支援協会理事長)
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